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労働基準監督署の調査対応方法と事前準備ガイド

労務顧問
松林 大樹コステム社会保険労務士事務所 代表

社会保険労務士・ PHP研究所認定チームコーチ。厚生労働省や都道府県等のホワイト企業認定マーク取得、㈱ワーク・ライフバランス認定「働き方見直しコンサルティング」、クラウド勤怠管理システム導入など採用力・定着力向上のための働きやすい職場環境づくりを支援している。講演実績としてアサヒビール(株)、コクヨ(株)、(株)デンソーセールス、農林水産省など。石川県金沢市のコステム社会保険労務士事務所の代表を務める。 プロフィールはこちら https://www.costem-sr.jp/about/profile

労働基準監督署の調査にどう対応すべきか不安な企業担当者必見!
本記事では、調査の理由や背景、確認される主な事項から、事前準備の具体的なステップ、よく指導されるポイントまでを網羅的に解説。
予期せぬ調査にも慌てず、適切な対応でリスクを最小限に抑えましょう。

労働基準監督署の調査とは

調査が行われる目的と理由

労働基準監督署の調査は、労働者の権利を守り、適正な労働環境を整えるために実施されます。
以下の目的と背景に基づいて実施されます。

1.調査の目的

  • 法令遵守の確認
    労働基準法や労働安全衛生法など、関連する労働法が守られているかをチェック。
  • 労働環境の確保
    労働者の雇用、安全、健康に問題がないかを確認。

2.調査が行われる主な理由

主な調査内容

企業が労働法を順守し、労働環境を適切に整えているかを重点的に確認します。
以下のような項目が主な調査対象となります。

1.労働時間に関する確認

  • 36協定の届出と、法定労働時間・休日労働の管理状況
  • 時間外労働の実態と正しい休憩時間の確保

2.労働条件の整備状況

  • 労働契約書や就業規則の整備・内容確認
  • 最低賃金の順守と労使協定の締結状況

3.年次有給休暇の管理

  • 5日取得義務の状況
  • 日数の付与ミスの有無
  • 有給休暇管理簿の正確な記載

4.安全衛生管理のチェック

  • 健康診断の実施とその後の対応
  • 作業環境の整備および安全教育の実施状況

5.従業員の雇用状況

  • 正規・非正規・派遣・外国人労働者の在籍人数と雇用形態の確認

6.賃金計算の確認

  • 賃金台帳や給与明細により給与計算の正確さと割増賃金の支払い状況

調査対象となる企業の特徴

以下のような特徴を持つ企業は、特に調査の対象になりやすいため、注意が必要です。

  • 労働者からの申告があった企業
    労働基準法違反の疑いで、労働者から申告や相談が寄せられた企業
  • 労働時間管理が不十分な企業
    36協定で過剰な時間外労働が認められている企業
    長時間労働が常態化しやすい特定業種(例:運輸、建設業など)
  • 法令遵守の不備が見られる企業
    届出が義務付けられた協定を未提出の企業
    法改正に伴う就業規則の変更を届け出ていない企業
  • 安全衛生リスクの高い企業
    業務災害が発生しやすい製造業や建設業など、危険な設備を扱う企業
  • 行政の重点管理対象となる企業
    労働局が定める重点分野(例:特定産業や業種)に含まれる企業

調査準備の具体的なステップ

書面、電話または突然の訪問の対応

通知方法ごとの具体的な対応ステップを確認しておきましょう。

【書面】による通知の場合

  1. 通知内容の確認
    調査の日時や場所を正確に把握し、内容を確認します。
  2. 出席者の選定
    出席者の指定がある場合は該当者に連絡し、指定がない場合は適切な担当者を選びます。

【電話】による通知の場合

  1. メモの作成
    調査の日時、場所、調査事項を正確にメモします。
  2. 質問事項の確認
    不明点があれば、その場で監督官に質問して解消します。
  3. 準備事項の確認
    必要な書類や出席者について詳細を確認します。

【突然の訪問】への対応

  1. 身分証明書の確認
    まず労働基準監督官の身分証を確認します。
  2. 調査理由の確認
    調査の目的をしっかり把握します。
  3. 対応者の選定
    経営者または人事労務責任者が迅速に対応します。

必要な書類・データの準備

必要な書類やデータを以下のステップに従って準備を進めましょう。

1. 書類リストの作成

  • 調査に必要な書類のリストを作成します。

2. 書類の収集

  • 各担当者に連絡して、必要書類やデータを依頼します。
    電子データは、印刷可能な状態にするか、監督署が電子形式での提出を認めるか確認しましょう。

3. 期間の確認

  • 出勤簿、有給休暇管理簿、賃金台帳など、過去2年間分のデータが求められることが多いため、指定された期間の書類を揃えます。

4. 書類の整理

  • 収集した書類を種類別に整理し、必要に応じてファイリングや付箋をつけ、すぐに取り出せる状態に整えます。

5. 内容の確認

  • 書類の内容が最新かつ正確であることを確認し、誤りがないかチェックします。

6. 追加書類の想定

  • 調査時に追加書類を求められる可能性があるため、関連資料も準備しておきます。

7. データのバックアップ

  • 書類のバックアップを取るため、クラウドや複数のメディアに保存することを検討します。

よく指導される事項

上限時間超えの時間外労働・休日労働

時間外労働の上限が適切に守られているか、36協定の締結や届出が正しく行われ、実際の労働時間が適正に管理されているかを確認されます。

1.原則的な時間外労働の上限

  • 月45時間以内
  • 年360時間以内
    これらを超えて労働させることは、原則として認められていません。

2.特別条項付き36協定の上限

臨時的な事情があり、労使の合意で特別条項付き36協定を結んだ場合でも、以下の上限があります。

  • 年720時間以内
  • 2から6ヶ月複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)
  • 月45時間を超えられるのは年間6ヶ月まで

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 – 働き方改革特設サイト

労働時間のカウントミス

労働時間が正しく計上されていない場合、法令違反とみなされることがあります。
特に以下の点に注意が必要です。

1.早出残業のカウント

  • 始業前に出勤して業務を行う早出残業は、労働時間としてカウントが必要です。

2.制服の着替え時間

  • 職場での制服着替えが必要な場合は、その時間も労働時間としてカウントする必要があります。

3.朝礼や会議の参加時間

  • 業務開始前の朝礼や、休日の会議参加も、労働時間として計上しなければなりません。

参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

給与計算の割増賃金の計算が間違っている

1.基礎賃金の計算ミス

  • 計算基礎に含めるべき手当(例:歩合給など)を除外してしまうことがあります。
    基本給だけで計算している場合も注意が必要です。
  • 家族手当や通勤手当など、除外要件を満たしている手当を誤って含めて計算してしまっている。

参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?

2.割増率の適用ミス

  • 法定の割増率(時間外労働:25%以上(60時間以上の場合50%以上)、休日労働:35%以上、深夜労働:25%以上)を下回っている場合や、会社の賃金規程に定めた割増率を守っていないケースがあります。
  • また、複数の割増条件が重なる場合、適切に合算していない場合もあります。

管理監督者の取り扱いミス

企業の管理職と労働基準法上の管理監督者の定義は異なるため、誤解が生じやすい点です。
肩書きだけでは管理監督者であると誤って判断して、時間外手当や休日手当を支払っていないことで指導を受けることがあります。
実際に経営に関与する権限や責任が伴わない場合、時間外労働や休日労働に対して割増賃金を支払う必要があります。

参考:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために

健康診断の結果を踏まえた産業医の意見聴取ミス

健康診断の結果、異常の所見がある労働者については、事業者は3か月以内に医師または歯科医師の意見を聴取し、適切な措置を講じる必要があります。
この意見聴取が期限を過ぎている、または実施されていない場合、労働基準監督署から指導を受けることがあります。

有給休暇管理簿の作成ミス

1.管理簿の作成漏れ

  • パートや契約社員も含め、全従業員の有給休暇を対象とした管理簿の作成が必要です。
    作成されていない場合、指導の対象となります。

2.記載項目の不備

  • 管理簿には、基準日、付与日数、取得時期など、必要事項を正確に記載する必要があります。
    不備がある場合、指導されます。

3.最新情報の反映漏れ

  • 有給休暇の取得状況を随時更新し、最新の情報を反映させることが求められます。
    更新が遅れていると、正確な管理ができていないと判断されます。

参考:厚生労働省「年 5 日の確実な取得 年次有給休暇管理簿の作成

有給休暇の5日取得義務エラー

1.5日取得できていない

  • パートタイマーなど、正社員以外の従業員も、年に10日以上有給休暇が付与されている場合、5日取得が義務となりますが、これを満たしていないケースが指導されます。

2.時間単位の有給休暇のカウントミス

  • 時間単位の有給休暇は、5日取得義務の5日には含められません。誤ってカウントしている場合、指導されます。

3.取得義務期間の重複ミス

  • 全社統一の基準日を設けている場合、取得義務期間が重複することがあり、その場合の管理が適切でないと指導の対象になります。

参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得

休憩時間が取得できていない

1.休憩時間が与えられていない

  • 法定の休憩時間(6時間超:45分以上、8時間超:1時間以上)が適切に与えられていない場合、指導の対象となります。

2.手待ち時間のカウント漏れ

  • 昼休憩中に電話や来客対応をしている場合、それは労働時間とみなされ、休憩時間としてカウントできません。この管理が不適切だと指摘されます。

3.一斉付与の不備

  • 一部業種を除き、労使協定なしで一斉付与していない場合、法令違反となり指導される可能性があります。

就業規則がない。または最新の状態に更新されていない

1.就業規則の未作成・未届け

  • 従業員10人以上の企業で就業規則を作成していない、または労働基準監督署に届出していない場合、法令違反となります。

2.内容の更新不足

  • 法改正や社内制度の変更に伴い、最新の法令に合わせた規則の更新が行われていない場合、適法な規則とはみなされません。

3.必要記載事項の不備

  • 就業規則には、絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項を正しく記載する必要がありますが、これが欠けていることも指摘の対象です。

調査後に行うべきこと

改善点の洗い出しと実行計画の作成

【改善点洗い出しのステップ】

  1. 調査結果の分析
    労働基準監督署からの指摘事項を精査し、法令違反や改善が必要な点をリスト化します。
  2. 問題の根本原因の特定
    表面的な問題だけでなく、背景にある原因を明確にします。
  3. 関係者からのヒアリング
    従業員や管理者から意見を収集し、現場の実態や潜在的な問題点を把握します。
  4. 業務プロセスの見直し
    問題が生じている業務フローを確認し、非効率な部分やリスクを特定します。
  5. 優先順位の設定
    法令遵守の緊急度や影響度に基づき、短期的・中長期的な課題を区別して対応します。

実行計画作成のステップ】

  1. 具体的な改善策の立案
    各問題点に対して、具体的な解決策と法令遵守を確保する戦略を明確にします。
  2. 目標設定とスケジュール作成
    改善の短期・中期・長期の目標を設定し、実施スケジュールを立てます。
    進捗を管理できるよう、マイルストーンも設定します。
  3. 責任者の割り当て
    各改善項目の責任者と実行担当者を明確にし、全体で協力できる体制を整えます。

是正勧告書等の作成と届出

労働基準監督署の調査後、法令違反が指摘された場合、是正勧告書が交付されます。この場合、企業は速やかに違反内容を改善し、是正報告書を提出する必要があります。

参考:厚生労働省「是正・改善報告書を作成する際のポイント

まとめ

コステム社会保険労務士事務所では、労働基準監督署への調査対応はもちろん、定期的な組織の健康診断をもとにした労務改善顧問サービスを提供しています。
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